鉄道会社の人事部課長として働く 吉田 恵子(よしだ けいこ)さん

鉄道会社の人事部課長として働く 吉田 恵子(よしだ けいこ)さん
<プロフィール>
1995年に大学卒業後、東武鉄道株式会社に総合職として入社。関連事業室、総務部を経て、経営企画部在籍中の2004年に出産。約1年育児休職後、フルタイムで復帰。その後、経営監理部、財務部、ビル事業部、グループ会社出向を経て、2016年から人事部課長。現在は自身の経験を生かして、出産後の女性社員の活躍に取り組み中。
吉田さんのこれまで
1995年 大学卒業後、東武鉄道株式会社に入社
2004年 関連事業室、総務部を経て経営企画部在籍中に出産。1年育児休職後、フルタイムで復帰
2013年 経営監理部、財務部、ビル事業部を経て、グループ会社出向
2016年 人事部課長
数少ない女性総合職としてスタート

  大学卒業後、1995年に東武鉄道株式会社に入社した吉田さんは、現在、同社の人事部課長を務めています。鉄道会社を希望する学生には、沿線開発や街づくりにあこがれる人が多いそうです。吉田さんは少し視点が異なり、駅には多くの人が集まるので、色々な機能を加えてもっと便利にできればと思いました。当時の東武鉄道は20名ほどしか大卒を採用せず、しかもその大半は男性です。しかし女性の少なさはそれほど気にならず、むしろ漠然と、女性が多い職場の方が合わないと感じたそうです。
  入社当時、会社は女性総合職を採用し始めたころで、吉田さんは5期目です。1期目の女性もまだ20代でしたので、出産後も働き続ける総合職は周りにいませんでした。吉田さん自身も長期的なビジョンは描いておらず、平成初頭の「バブル」がはじけ、就職が厳しい時代だったので、「まずは入れる会社があって良かった」とほっとしたそうです。
  当時、多くの女子大学生は、総合職/一般職どちらを選ぶか決断を迫られました。吉田さんは総合職にこだわったわけではありませんが、一般職にも躊躇がありました。そうしたなか鉄道会社の大卒募集は総合職のみでしたので、鉄道会社なら総合職、となりました。
  入社して20年以上たちますが、辞めたいと思ったことはありません。しかし初めての昇進を迎える前後で壁に突き当たりました。当時は今よりもある程度横並びで昇進する時代でしたが、ルーティン業務が比較的多い部署から、一転して「考える時間」が多い部署に異動した時期でした。自分でテーマを設定し、データを集めて経営計画などの基礎資料を作るのですが、目に見える成果が即得られない仕事をする中で主任にあがったので、「何も提供していないのに肩書きだけ上がった」と、実力はステップアップした実感がありませんでした。同期はどんどん成長しているのに自分自身は手応えを得られず、一人不安に苛まれたそうです。しかしこの経験は、「与えられた仕事をこなす」という受け身の姿勢を見直すきっかけとなりました。また今でも、データを分析する際には、机上の空論にならないよう心がけています。

出産後はフルタイムで復帰

  入社以降3年位のスパンで異動しており、いちばん長かった経営企画部で4年半在籍しましたが、うち1年は育児休職したので、正味3年です。当時は短時間勤務や時差出勤の制度がなく、フルタイムの就業しか選択肢はありませんでした。復職前は、保育園に入れるか、子どもの体調不良で休んでばかりにならないか、と不安は尽きませんでした。何とか1歳になる前に認証保育園に入ることができ復職しましたが、子育てと仕事の両立は大変で、もっと子どもに時間をさくべきではないかと思ったこともありました。
  しかし小学校にあがってからも近所の民間学童保育サービスを利用でき、子どもは保育園も学童も大好きだったこと、年上や年下のお友達との関わりをはじめ家ではできない経験がたくさんできたこともあり、精神的に追い詰められるほどの葛藤はなかったそうです。「フルタイムの共働き」が今ほど一般的ではない頃でしたが、夫も吉田さんより時間を融通しづらい職場ながら協力的でした。
  鉄道会社には、事故への対応など突発的業務が頻出する部署があります。しかし吉田さんの場合、スケジュールを見通しやすい部署が続いたことも幸いでした。恒常的に遅くまで仕事をすることはできませんでしたが、帰りが遅くなる日が予測できたので、保育園のお迎えを夫や夫の両親に前もって頼むことができました。当時は、出産して働く総合職の女性がまだ少なかったのですが、育児による時間的な制約は最小限に抑えることができたと思います。

戸惑いと自分なりのリーダー像

  その後、経営監理部、財務部、ビル事業部、グループ会社出向を経て、2016年から人事部課長を務めています。以前はリーダーと言えば「先頭に立ってぐいぐい引っ張る」というイメージがあり、自分は向いていないと思っていましたが、今は特性や状況に応じた様々なタイプのリーダーがあると思っています。人事部には課長として初めて赴任したのでいわば新参者です。日々の業務には、部下の方が精通しています。そこですべてを掌握して指示を出す「上からのリーダーシップ」というよりは、知らないことは部下に教わりながら、「部下の力を引き出せるリーダーシップ」を発揮できるよう努めています。
  吉田さんは色々な部署で様々な上司と接し、様々なリーダー像を目にしてきました。その経験から「強く命令するリーダーだけがリーダーではない」と実感し、自分なりのリーダーシップのあり方に自信をもてるようになりました。
  じつは人事部課長の前職も、「ほとんど経験のない出向先に、肩書きだけついていく」というものでした。自分より仕事を知っている人を指揮する立場が続き、いたたまれない思いになることもあります。しかし経験がないことは会社もわかったうえですし、知らないからこそ言えることもあるのでは、と考えられるようになりました。同期の中には、特定の部署に長く在籍し、専門分野を持っている人もいます。しかし吉田さんは、総合職の仕事は色々な部署を経験し全体最適の視点で判断することが求められるので、異動を重ねつつ、その都度教えてもらいながら幅を広げ深めていけばいいと考え方を転換したそうです。

与えられた機会は断らない

  課長の内示を受けたとき「なぜ私が」とは思いましたが、「断る」という発想はなかったそうです。後に続く女性たちのために、ノーは絶対にあり得ないという気持ちでした。
  じつは子どもがまだ保育園のころ、4泊5日の社外研修に参加したことがありました。このときも、「どうする?」という選択肢のある打診であったら躊躇していたかもしれません。しかし参加するようにとの指示であったので、夫や夫の両親に子どもを託しました。やりくりは大変でしたが、5日間もの研修は貴重な機会で、成長のきっかけとなりました。
  こうした経験から、女性への「過度な配慮」はかえってマイナスだと感じています。むしろ、やってくださいと背中を押せば、どうやったらできるか考えることで、できてしまうことの方が多いと思います。それは期待の裏返しですし、期待されていないと感じながら会社にいるのは、育児中の女性に限らずつらいと思います。

人事にたずさわる女性として

  「女性」課長であることは意識していませんが、人事にたずさわる女性としてやってみたい仕事があります。吉田さんの会社では、1991年に総合職女性の採用が始まって以来、トータルの採用数は100人に達しました。しかしもう1人いた同期の女性を含め、吉田さん世代で退職せず働き続けている女性は半数以下となっています。
  今は、出産に関わる制度が整い、取得もしやすい環境のもと、出産を機に辞める女性はいませんが、次なる課題として「出産後も働き続ける女性の活躍(昇進・昇格)」をあげます。
  現状では、出産した女性の半数以上が短時間勤務制度を利用しており、昇進・昇格のスピードが遅くなる傾向があるそうです。上司は、本人が短時間を希望している間は、あまり負荷をかける仕事を与えるのは控えようとなりがちです。吉田さんは、短時間勤務の期間はできるだけ短い方がよいと考えています。なぜなら吉田さんのころは、制度がなかったためフルタイムで復帰しました。結果的に育児中も経験できる仕事の幅は広がり、現在につながっているのだと思います。従って、短時間勤務制度利用者が増える中、上司がキャリア形成につながる仕事をどのようにアサインしていくかが課題だと考えています。
  両立支援制度の充実はもちろん大切です。吉田さん自身も、当時制度があったら、短時間勤務を選んでいたかもしれません。しかし手を尽くせば、育児中でもフルタイム勤務に近づけることは可能だと思います。キャリアに影響が生じる可能性に気づきながら、他の選択肢をあまり考えず短時間勤務を選んでいるとすれば、女性にとっても会社にとってももったいないことです。
  吉田さんの出産当時にはなかった「他の選択肢」として、短時間勤務に加え出勤時間を前後にずらせる制度があり、休暇も1時間単位で取得できるようになっています。これらを利用すれば、保育園のお迎えという時間的な制約があっても働ける時間の短縮を少なくできそうです。吉田さんは、女性には様々な可能性を検討して、理想のキャリアを手に入れてほしいと考えています。短時間勤務を選択することで働き方を一律に狭めるのではなく、上司と女性が丁寧に話し合い、価値観を尊重しながら可能な限りキャリア形成につながる働き方を考え、実践することは可能です。

新たな試みと手応え

  そこで最近、育児休職前の女性と個別に話し合う機会を設けています。「会社の近くに引っ越したので、様子をみてできそうならフルタイムで復帰したい」という女性もあらわれたり、業務での接点が少なかった女性と話すことで思いがけないアイデアをもらったりと、少しずつ手応えを感じているところです。
  上司は、休職中に仕事の話をすることを遠慮しがちですが、会社から離れると不安になる女性もいます。そこで休職中にどの程度会社からアプローチしてほしいか確認し、上司に橋渡しすることもあります。休業中も積極的に声をかけてあげてくださいと伝えたら、部署の様子をこまめに伝えてくれている人もいるそうです。女性側からは言いにくいこともあると思うので、橋渡しすることで、復職への不安を少しでも解消したいと思います。今後は、人事部課長という立場を生かして、育児休職中のフォローも充実させたいと考えています。
  5期目の女性総合職として入社してから20年以上過ぎ、その間、会社も社会も大きく変わりました。その変化の中で、「出産後もフルタイムで働き続けた人事部課長」だからこそできる仕事に出会いました。今、私がこのポジションにいるのは、今後女性に限らず働き方に制約がある社員が増えることが予測される中で、各々が最大の力を発揮できる多様な働き方ができる環境をつくっていくためではないかと思います。

(平成29年度インタビュー)

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