専業主婦としてのブランクを経て、地域で働くことを課題解決につなげるコミュニティビジネスを起業 ~ NPO法人マイスタイル代表 竹内千寿恵(たけうち ちずえ)さん

専業主婦としてのブランクを経て、地域で働くことを課題解決につなげるコミュニティビジネスを起業 ~ NPO法人マイスタイル代表 竹内千寿恵(たけうち ちずえ)さん
<プロフィール>
竹内千寿恵さんは、大学を卒業して2年ほど働き、結婚して仕事を辞めた後は、転勤族の妻として子育てをする専業主婦。10数年以上のブランクを経て、再就職を決意。このブランクが大きな壁だったが、公的機関の研修で簿記やPCの資格を得た後、オンラインコミュニティを通じて得た情報やスキルアップで就職につなげる。その後、コミュニティビジネスをサポートするNPO法人の事務局で働いた後、地元でNPO法人を立ち上げて、現在は自治体や地元の団体等と連携して女性のキャリア支援事業を展開中。
竹内さんのこれまで
1982年 大学卒業後、教育関係の出版社に就職
1986年 結婚して退職後、全国各地を転勤しながら子育て
1998年 再就職を決意するが地域の雇用環境が悪く求職活動は難航
2000年 夫が東京に転勤が決まる。転勤先の就職準備のためハローワークで資格取得
オンラインコミュニティで東京の情報を得る
年齢と経験のブランクで再就職活動は難航するが、金融事務の仕事が決まる
2001年 PTA活動やオンラインコミュニティを通して、地域にネットワークが広がる
2003年 都心のコミュニティビジネスのNPO法人に勤務(3年間)
2006年 地元でNPO法人マイスタイルを立ち上げる
2016年 小平市や地域のNPOとコワーキングスペースを準備中
キャリア前期 転勤族の子育てと専業主婦時代

  竹内さんは愛媛県出身で、地方都市の商店街で生まれ育ちました。両親は共働きで忙しかった一方で、地域の温かいコミュニティに育まれて大きくなったとふりかえって感じています。大学卒業後2年間地元の出版社で働いた後、結婚と同時に退職。その後は約13年間専業主婦となります。夫は転勤族なので10年間に8回も引っ越し、知らない街で子育てをする経験を繰り返しました。この間には両親の遠距離介護もあり、夫も忙しく孤立した子育てでした。一方、身近に誰も知っている人がいない時でも、地域の人から多くの面で助けられ支えられました。この経験は、その後の竹内さんの活動につながります。偶然支えてくれる人たちに巡り合うのではなく、介護や子育ての困難に直面している人が助けを求め、いつでも必ず安定して依頼できる仕組みが地域に必要だと思うようになります。

長期のブランクからの仕事再開とそれに向けた準備

  夫が転勤続きにピリオドを打ちたいと考えるようになった時に、竹内さんが思ったのは、夫1人に家計を背負わせるのではなく、2人で共に家庭を支える働き方がしたいということでした。しかし、竹内さんには13年間のブランクがあります。景気も悪く地方ではパートの仕事さえみつけることが難しい状況でした。
  その頃は四国に住んでいたのですが、夫は東京に仕事を見つけました。まず夫が先に行き、竹内さんと子どもは3カ月後に合流することになります。その間をどのように過ごすべきかと考え、スキルを身につける必要性を感じた竹内さんはハローワークの職業訓練コースに応募します。パソコンスキルと簿記を学ぶカリキュラムで3カ月間学習した結果、簿記3級とマイクロソフトのオフィスの検定試験に合格しました。
  しかし、引っ越し先の東京の職探しについては何の情報もありません。当時は(2000年頃)は、仕事に就いていない女性たちの間ではパソコンを使って何かできないかという動きがありました。さまざまなオンライン主婦サークルの中から、活動内容や主催者の姿勢に共感できるコミュニティを見つけてメンバーとなります。そのコミュニティを運営する団体主催者が在住する小平市に引っ越しました。保育園を調べると空きがありました。

再就職の困難に直面

  資格を取得し、戦略的に働きやすい環境を事前にリサーチし、万全の準備で臨んだつもりの再就職でしたが、すぐに困難に直面します。最初の壁が年齢です。40歳を超えるとスタートラインにも立てないのです。専業主婦時代のブランクがあるため「経験」も足りません。書類選考の段階を超えられないことに愕然とします。それでも面接にまでたどり着くと、「ただお仕事をしてみたいだけでしょ」と言われたこともありました。何らかのかたちで実績を重ねる必要があると感じ、メンバーとなった小平のオンラインコミュニティのメルマガ発行や会員管理の仕事を引き受けたことが第一歩になりました。
  自宅に近い場所で仕事がしたいと考えていたため、新聞折り込みなどの求人情報を一生懸命探し、最終的には金融機関の事務センターに職を得ることができました。パソコンや簿記の資格を習得したことが役立ったと言います。

NPOやコミュニティビジネスへの関心

  その後一般企業の職を探しましたが、地域で働きたいと考えていた竹内さんは1998年に制度化されたNPOという働き方に関心をもちます。そのきっかけとなったのはPTA活動でした。転勤族時代はしっかり関われなかったのですが、やっと腰を据えることができたのでPTAの役員に手を上げました。活動する中で地域の課題も見えてきて、解決するために何ができるだろうかと思い当たったのがNPOです。地域の様々なネットワークに飛び込んで行くうちに、多くのNPOの関係者にも出会いました。この世界の中で仕事を見つけたいと、徐々に考えが変わっていきました。
  竹内さんがもっとも関心をもっていたのは、働くこと、仕事をつくること、地域課題を解決していくことの3つでした。自分が今後働く場所は、これらを併せ持つコミュニティビジネスだとわかりました。インターネットや書籍などを通じて調べるうちに、「NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター」という全国的に活動している組織の事務局が職員を募集していることを知ります。事務所は都心にあり、小平市から近くはありません。子ども2人は小学生です。どうしてもやりたいという気持ちから、「3年間、お母さん頑張ってくるから、ここは一緒に頑張ってくれるかな」と子どもたちに説明し、期間限定でその仕事を選びます。ひとつのことに1万時間、専念すれば、プロと言ってもいいレベルに到達できるという話を聞き、1日10時間、3年間専念しました。
  採用されたNPO法人は千代田区に拠点を持ち、コミュニティビジネスの普及啓発、自治体の事業を推進するサポートと行う活動を広く全国で展開しています。活動を通して様々な事例を学ぶことができました。これからはコミュニティビジネスのニーズがあることを確認できました。支援方法も学びました。プロジェクトの企画・実施や管理の経験を積んだことは、その後自身のNPO法人立ち上げに大変役立つことになります。

コミュニティビジネスの実現に向けた準備

  竹内さんは、自分が暮らす街で仕事がしたいという思いを持ち続けていました。仕事か家庭かという二択の葛藤について、どちらも諦めたくない。そのために何をクリアする必要があるか、と考えます。ひとつは物理的な距離、もうひとつは時間の制約からの自由です。勤務しているということは、ある一定の時間はその場所で仕事をすることが求められますが、起業すれば、責任を持つ必要がある一方、働き方については一定の裁量権が得られると気づきました。
  「コミュニティビジネスサポートセンター」での仕事をしながら、地域で立ち上がっていた情報サイトの運営を開始します。地元に軸足を置き、全国的な動きについても視野を広げ、地域の情報サイトをつくるプロセスで出会いを通じて仲間も生まれました。竹内さん自らが立ち上げることになるNPO法人は、地域で出会った人たちや小学校のPTA活動を通じて出会った人たちが母体となって誕生しました。

自ら組織を立ち上げる ― NPO法人マイスタイルの誕生

  竹内さんが地元で立ち上げたNPO法人「マイスタイル」は、コミュニティビジネス活性化にかかわる様々なプログラムを展開しています。街を育むプログラムでは、起業講座や情報発信をする力をつける講座、そのためのICTやブログ・動画をつくる講座もあります。同時に地域の中にネットワークをつくるきっかけのための「対話ワークショップ」を運営する講座も行っています。市民力アッププロジェクトでは、企画する力、それを実現していくための力、話し合う力、会議力など、幅広いメニューをこの10年間に実施してきました。NPOの世界もコミュニティビジネスの世界にも共通した傾向として、志はあるがビジネス面が弱い、両輪がバランスよくまわってこそコミュニティビジネスとして地域の中で持続していくことができる、と考えています。「『夢』と『そろばん』創業塾」と名付けた講座を実践しているのはそれが理由です。
  2016年、地方創生の関連事業として、小平市といくつかの事業体との共同事業で、子育て中の女性の就労支援を立ち上げました。まず就労支援の拠点となるコワーキングスペースをまちの商店街の中につくる予定です。子育て中の女性にとって必要な情報を一元的に提供するポータルサイトの開設も行います。「NPO法人マイスタイル」の10年間の活動の中で、子育てでキャリアを中断して次の一歩を踏み出したいが、家族のそばで仕事もしたいという女性にたくさん出会ってきたことが理由です。女性たちのニーズをくみ取って研修を企画し、働くきっかけの場としてカフェやサロンを用意するとともに、実践の場所にしていきたいと考えています。

今後の展望について

  竹内さんは、これからも地域に暮らす人の課題を解決するビジネスとして、コミュニティビジネスを活性化する活動を続けていきたいと考えています。行政だけではできない、そして一般企業は採算的になかなか踏み出してこない、高齢者対策や子育ての分野の分野で、隙間を埋めるコミュニケーションの役割は、ますます必要性が高まると予想しています。
  たしかに女性のキャリアは、子育てなどで一旦中断するとどうしても次の一歩が困難になりますが、一方で時代は少しずつ変わってきているとも感じています。特にコミュニティビジネスやNPOの世界では、年齢や性別の壁が少なく、次第にそれが一般企業にも波及している可能性も実感しています。子育て・介護によって自分の気持ちだけでは自由に動けないときは人生で必ずあります。その時は力をつける時期と捉え、時期が来たらいつでも羽ばたける準備をしておくとよい、と竹内さんは考えています。子育てで途切れた職業キャリアのつなぎ直しは困難な状況もありますが、決して希望が持てないわけではない。そのためには学び、スキルをつけ、準備を着々と進めること、そうして次の扉を開けてほしいと結びました。

(平成28年度インタビュー)

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