地域から学校を支える活動~生重幸恵さん

地域から学校を支える活動~生重幸恵さん
<プロフィール>
北海道札幌市生まれ。結婚・出産後は、東京で3人の子どもの成長に伴い、児童館の手伝いやPTA会長を経験するとともに、フリーランスで市場調査の仕事にも就き、社会の世情を様々な角度から見てきた。学校教育へ地域の立場から支援していくことの必要性を痛感し、現在の活動に専念することを決意。2002年東京都杉並区より「学校教育コーディネーター」(第1号)に任命された。また、これを機に、NPO法人を設立し、学校と地域をつなぐさまざまな活動の企画、運営を展開。文部科学省、内閣府、経済産業省、東京都等の役職を歴任、さらに学校サポーターやキャリア教育コーディネーター等の人材育成で全国的に活躍している。(50代)
生重さんのこれまで
1973年 上京し劇団に入る
1982年 結婚
1994年 小学校PTA会長就任
1998年 中学校PTA会長就任
2000年 杉並の教育を考える懇談会委員就任
2001年 配偶者病気で他界
2002年 杉並区学校教育コーディネーター受託、NPO法人スクール・アドバイス・ネットワークを設立し、理事長に就任
2003年 東京都生涯学習審議会委員、東京都社会教育委員就任
2007年 内閣府地域活性化伝道師就任
2008年 経済産業省の委託を受け「キャリア教育コーディネーター」育成・評価の全国システムの開発に従事
2011年 文部科学省中央教育審議会委員、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会代表理事就任
子育てと地域活動に専念〜学校への協力を開始〜

  3人の子どもの成長に合わせて、親として学校や地域の活動にボランティアで関わっていくうちに、教育との関係が深くなっていきました。独身時代一時劇団に所属し、全国を回った経験がありました。学校を訪問する機会もあり、その経験が後の児童館や人形劇サークルを支援するボランティア活動に役立ちました。
  幼稚園の母親クラブ、児童館の人形芝居サークルの活動へ参加することから始まり、1994年から小学校、1998年には中学校のPTA会長を引き受けました。その経験を通して、一部の保護者たちの非協力的態度や、小学校、中学校の教師の悩みと多忙さ、児童生徒の変化を実感するようになり、保護者として学校を支援したいという思いを強くしました。そして、教頭や校長等の管理職と積極的に対話をし、PTAとして学校を支援できる具体的な活動に取り組みました。同時期、他の学校のPTA会長とも親交を深めることとなりました。
  中学校のPTA会長と同時に、杉並区PTAの代表として「教育を考える懇談会」に参加するようになりました。活動を始めた時は受験生を2人抱え、2001年に配偶者が病気で他界するという大きな変化に遭遇しました。配偶者の死は、これからの自分の生き方を考える機会となりました。その結果、市場調査の仕事を辞め、教育の支援に専念することを決断しました。「再出発するならば、お金や安定よりも自分にしかできないこと、誰かの役に立つことを優先したいと思いました。教育の世界で必要なことを、教員ではない目線の人間が企画し、サポートすることは、自分でなくてはできないと確信した」からでした。また「当時、PTAの役員をいやいや取り組んでいたのを見て、子どもたちのためにPTAにかかわるのなら、自分も楽しみながら活動することが必要であるし、忙しい教師を支えることには意味がある」「今までも、じっとしていられない性格だったので、校長をはじめ教師たちと積極的に会話をし、役に立てる仕事を探すことが楽しかった」という経験が支えとなりました。

地域と学校の架け橋に専念〜仲間とNPO法人設立〜

  杉並区教育委員会は、児童生徒が未来を担うべく、楽しく学び、思いやりのある心と生きる力をはぐくむことができる教育の推進、区民の生涯にわたる学習、文化スポーツの活動の振興を図るため、2002年に「教育改革アクションプラン」を策定しました。そのプランの実現の一環として、東京都に先駆けて「学校教育コーディネーター制度」を導入しました。この第1期生4人のうちの1人に委嘱されました。月額3万円の活動費はあるものの、身分はほとんどボランティアでした。
  当初は会長をしていた天沼中学校のほかに5つの学校を受け持ちました。他のコーディネーターとは月1回の会議をしながら情報交換をしましたが、「学校教育コーディネーター」の活動は多岐にわたり、効果を上げるためには単独では限界があることを悟り、PTA会長時代から親交のあった他校のPTA会長経験者2名とNPOを設立しました。

活動分野は広がり続ける

  2002年にNPO法人理事長となり10年、活動に100%全力投球しています。活動内容は拡大を続け、生きがいとなっています。さらに延長上の仕事として、文科省中教審委員、内閣府地域活性化伝道師、東京都生涯学習審議会委員等の役職を歴任しています。現在は経産省キャリア教育コーディネーター育成関連事業をきっかけに設立した、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会の代表理事も兼務しています。
  行政との関係はNPOの活動を発展させ、その存在を地域に認識してもらうための要となってきました。と同時に、行政の考えを発展させるのに寄与してもいます。
  生重さんは、「今まで実施してきた事業や活動を保守し継続することには満足しません。むしろ、常に、『今学校教育で求められる支援』をさがして、新たな活動に取り組んでいるため、現在も活動の範囲は拡大を続けています。とくに子どもと大人、学校と学校、学校と地域、学校と企業などのつながりを広げるためのコーディネートをする役目を果たすことに努めています」と言います。

地域から学校を支える活動の内容

  (1)学校の要請にこたえる学校教育上の授業の企画、授業の支援
  学校の要請にこたえる支援活動は2通りあります。ひとつは既存の学校教育プログラムへの協力。例えば、「総合的な学習の時間」「道徳の授業」、そして選択教科を支援する社会人講師や部活動の外部指導員紹介など、学校の要請に適した地域の人材との交渉や、職場体験をより有意義に行うために、個々の児童生徒の将来の夢探しに貢献できるような事後指導のプログラムを開発することです。もうひとつは新たな授業や講座を提案し実施することです。例えば、臨床心理士による「怒りのコントロール」を授業として実施、「道徳教育公開講座」開催などです。地域の商店街と協力して、空き店舗利用の放課後の「子どもたちの居場所としてのカフェ」「中高生起業家養成講座」などに取り組み、経営を実践的に学ぶ機会を作るなど、学校と地域での学びを支援する企画・運営も行ってきました。
  (2)身近な本物を子どもに伝える活動
  「子どもたちが社会の仕組みや仕事に興味をもち、自分の将来像を確立していくためには、さまざまな"本物"と出会い、働くおとなの姿に触れることが必要」という理念から、地域内のみならず地域外の企業の人々との対話を増やし、学校への協力を増やす人材と企業を拡大する活動を行ってきました。例えば、企業が行う学校支援プログラムについてのアドバイスの提供、学校への具体的な人材の紹介を通して、学校と企業の双方にメリットとなる働きかけをしています。
  (3)学校と地域の橋渡しとして働ける地域の人材の発掘と訓練講座の実施
  ひとつは、杉並区とその周辺の「学校教育にかかわりたい」住民を対象に、「図書室ボランティア」や「英語活動講師」を希望する人を募集し、子どもたちの学びを支援する人材の養成を行います。支援に入る前に、「教え方の研修」をしています。「英語活動講師」は、海外生活のある主婦や、学生時代語学を専門とした主婦を対象に多くの応募者がありました。もうひとつは全国レベルの人材養成プログラムです。2009年より経済産業省の委託事業で、「児童生徒の勤労観、職業観を育てるキャリア教育コーディネーター」の育成・評価を行う全国的なシステム開発と、キャリア教育コーディネーター養成の事業です。
  (4)学校支援のネットワークの拡大を目指す
  以上のような活動の拡大を通して、学校教育を支援するネットワークを作り上げることをめざしています。特に、地域には様々な特技や趣味、経験を持つ人々がたくさん生活しています。NPO法人では、地域の人とのネットワークづくりとして、漠然と「学校に来てください」と誘うのではなく、目的や役割を明確にすることを心がけています。具体的な学校支援活動を通して子どもたちと直接かかわることで、地域の人々にも何かを得てもらえるようなコーディネートを果たしながら、ネットワークを広げていけるよう工夫しています。

(平成22年度インタビュー、平成24年度追記し掲載)

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