企業の研究所に就職して~コンピュータを使う側からつくる側へ~佐藤史子さん

企業の研究所に就職して~コンピュータを使う側からつくる側へ~佐藤史子さん
<プロフィール>
日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所研究員。東京工業大学物理学科、同大学院修士課程で基礎物理学を専攻し、原子核物理を研究。研究でデータ解析に使っていたコンピュータ自体に面白さを覚えるようになり、コンピュータを使う側からつくる側へと転身をはかり、現在、Webサービス、Webサービス・セキュリティに関する研究・開発を行っています。(30代)
佐藤史子さんのこれまで
数学や物理が好きだったため、高校で理系を選択。両親の希望もあり医学部を目指す。
センター試験後、理工学部へ進路変更する。
東工大理学部物理学科に入学。
大学院修士課程で、より社会に影響力のある研究がしたいと思うようになる。
研究におけるデータ解析に使っていたコンピュータ自体に面白みを覚えるようになり、日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所に研究員として就職。その後結婚。
Webサービス・セキュリティの研究部門に配属される。
産休・育休後、仕事に復帰。
今後、働きながら大学院博士課程に進学予定。
企業の研究所に就職して~コンピュータを使う側からつくる側へ~佐藤史子さん
コンピューターシステムの“未来”を研究する

  インターネットでは、直接お店へ行かなくても、欲しい物を買ったり、チケットを予約・購入したりできる便利なサービスがたくさんありますが、その後ろでは多くのコンピュータが相互に接続し、複雑なシステムが動いています。佐藤さんは、このようにインターネットを使って提供されるサービスのうしろで動くシステムや、システムの性能や安全性を高めるための研究をしています。一般の人の目には見えないシステムですが、サービスが安全に提供されるためには不可欠なシステムですので、実際には社会に重要な影響力をもつ仕事です。
  今よりもっと良いサービスを提供するためのシステムにするにはどうしたらいいのか、そのためにはどんな技術が必要なのかということが、佐藤さんの主な研究テーマです。今はまだ使われていない、未来の技術を現実のものにする仕事へのモチベーションを支えているのは、自分でないとできない仕事がしたいというこだわりと、新しいものをかたちにして研究を社会に還元したいという思いです。

小さい頃から理科が好き

  佐藤さんは小学生の頃から算数、理科などの理系の科目が好きで、自分のことを理系だと改めて自覚することもなく、理系コースに進みました。そして共に薬剤師だった両親が、娘には医者になってほしいと希望していたことや、自分自身ホスピスで働きたいと思っていたこともあり、最初の頃は、大学は医学部を第一志望にしていました。しかし本当に好きな科目は数学や物理で、生物はあまり好きではなかったため、センター試験が終わり、最終的に志望大学を決定する時に、理学部に進むことにしました。高校の卒業式で担任の先生がクラス全員にプレゼントしてくれた朝永振一郎の『鏡の中の物理学』を読み、物理の面白さを再発見・再認識したことも大きな影響がありました。

研究生活の面白さと同時に感じる現実社会とのギャップ

  大学の理学部物理学科に進み、現実世界とはかけ離れた不思議な挙動をするミクロの世界への関心を深め、原子核物理の研究室に進みます。学部では女性は約1割いましたが、研究室には学生が10人くらいしかいないうえに、先輩にも後輩にも女性はいませんでした。しかし主な作業はパソコンでプログラミングしたり、解析したりということだったので、男女での体力的な違いはあまり感じなかったこともあり、女性が少ないという状況はあまり意識することがありませんでした。
  物理学科では90%以上の学生が大学院へ進むため、佐藤さんも自然に修士課程へ進みました。原子核の中の小さな粒子がどのような分布をしているかということを調べるために、ドイツにある何十キロもあるような加速器を使って行われた実験結果を、インターネットを介して持ってきて、コンピュータで解析していました。そんな研究生活を送るうちにいろいろな思いがわいてきました。研究自体は面白いのですが、たとえ頑張ってすごい発見や、実験結果を出したとしても、それが影響するコミュニティが小さいのではと感じたのです。せっかくやるのであれば、何かもう少し社会に還元されるような仕事がしたいと思うようになり、就職を考えるようになりました。

企業の研究所に就職して〜コンピュータを使う側からつくる側へ〜

  研究で使うようになったコンピュータが面白くなったことと、何か新しい技術や新しいものをつくってかたちを残したい、また社会への影響力ということを考えると企業に行きたいという考えのもと、企業で研究職を募集しているところを探しました。
  そして希望通り、日本アイ・ビー・エムの研究員として採用され、仕事を始めましたが、物理学から工学系へ専門分野を変えたための苦労もありました。工学系の人の知識のベースと自分のベースが違い、はじめは職場の皆が何を話しているのかわからないという感じだったそうです。でも、周りには専門分野について詳しい人がたくさんいますので、分からないことがあっても、まず周りの誰かにきけばいいのです。仕事のことを直接相談することもありますし、どういうことを勉強したらいいのか、どの本を読めばいいのかということをきいて、仕事上の困難を解決していきました。
  それでも専門分野が違うということは研究上大きなことですし、自分にはこれが出来るという専門性をもっと高めていくために、これから大学院の博士課程へ行くことにしています。

子育てをしながら働く

  佐藤さんは入社2年目の終わりごろ結婚、その後出産し、半年育児休職を取って復帰しました。子育てには実家の全面的な協力があり、また研究所は裁量労働制で、最終的に結果が出れば良いというスタンスですので、時間や場所の自由度が高く、両立という点ではありがたいということです。そのように環境に恵まれた佐藤さんですが、子どもを見てもらいながら仕事をすることに関して悩んだ時期もあったそうです。その悩みは、家族に相談して解決してきました。

いま現在“好きだ”思う気持ちを大切にしていきたい

  佐藤さん自身はあまり将来について、そんなに考えずにここまでやってきたような気がしていると言います。大学を選ぶにしても、研究所を探すにしても、欲しい情報を調べることは出来るし、それは必要なことです。しかし、あまりこだわりすぎて考えすぎるよりも、その場その場で好きなものや、やっていて気持ちの良いものを選び、今現在好きだという気持ちと将来への展望とのバランスをうまく取りながらやっていくのが良いのではないかと思っているそうです。

(平成18年度インタビュー)

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