数学を学ぶ楽しさを「教えたい!」から女性研究者支援へ~ 榎本裕子さん

数学を学ぶ楽しさを「教えたい!」から女性研究者支援へ~ 榎本裕子さん
<プロフィール>
早稲田大学女性研究者支援総合研究所客員研究助手。東京女子大学で数学を学び、同大学院の修士課程、早稲田大学で博士課程に進んだ後、博士号をとって、早稲田大学理工学部の助手として3年間勤めました。またその間、早稲田大学高等学院で数学を教えていました。その後2006年10月にオープンした早稲田大学女性研究者支援研究所で働いています。(30代)
榎本裕子さんのこれまで
数学ができず、中学2年生のとき少人数の補講塾に通い、数学の面白さに目覚める。
高校時代は数学がますます面白くなり、教員を目指す。
東京女子大学数学科に進学。
同大学院修士課程に進学。早稲田大学のゼミにも参加し、研究の面白さを知りさらに進学することにする。
早稲田大学の大学院博士課程に進学。この間、同大学の付属高校の数学非常勤講師も勤める。
早稲田大学理工学部数理科学科の助手となる(任期3年)。
2006年10月に新設された女性研究者支援総合研究所に、客員研究助手として勤務。
数学を学ぶ楽しさを「教えたい!」から女性研究者支援へ~ 榎本裕子さん
女性の研究者を支援する場で、「15%」を目指す

  「15%」?これは榎本さんたち早稲田大学女性研究者支援総合研究所が目指している、早稲田大学の理系の女性教員の割合です。早稲田大学は5万人の学生が在籍する私立の総合大学。女性も3分の1近い1万5000人学んでいます。けれども、専任の教員や助手は、文系で13.8%、理系では7.3%しかいない状態です。まだまだ大学で教える女性は少ないのです。そこで女性の研究者を支援していこうとつくられたのがこの研究所。2006年10月にオープンしました。
  ここで榎本さんは、大学生や高校生の女性たちに自分自身の力を生かす仕事と生き方を紹介し、女性研究者を育て、支援する仕事をしています。「どうすれば女性の研究者がもっと増えるか、力を発揮できるようになるか」を考えるシンポジウムを開いたり、高校生に向けて理系で学ぶことの楽しさを伝え、理系の志望者を増やすための支援などしています。その他、この研究所では、女性の教員を増やす施策の提案や学内の保育所を充実させて、子育て中の女性でも勉強や研究ができる環境を整えるなど、さまざまな事業をしています。

中学の時に知った数学を学ぶ楽しさを「教えたい!」

  では、榎本さんは女性の問題を専門に勉強してきた人かといったらそうではありません。榎本さんは、大学、大学院とずっと数学を専門に研究してきた理系出身の方なのです。数学の専門家が女性研究者の支援や教育?、と不思議に思われるかもしれませんが、榎本さんにとっては、中学時代から抱いていた「学ぶ楽しさや大切さを伝えたい、教えたい」という気持ちは、現在の仕事に結びついているのです。
  実は、榎本さんは中学2年生の時まで数学が全然できず、平均点を超えることがないくらいでした。そのためお母さんが心配して、少人数の補習塾に通うことになりました。そこで榎本さんは、同じ目線、同じ速度で、一対一でじっくりと一緒に考えてくれる塾の先生と出会い、数学の面白さに目覚めます。その後、高校時代に出会った先生から、数学はただパズルを解くようなものではなく、きちんと考えて文章を書いていく論理的なものだと学び、ますます数学が面白いと思うようになりました。その二人の影響で、高校生の頃は先生になりたいと思っていました。ですから大学を選ぶ決め手は、「教員免許がとれ、数学が学べて、教員になっている率が高いところ」。入学したのは、私立の女子大の数学科でした。

「数学は嫌い」「なぜ数学を勉強するの?」という生徒に出会って

  大学に入って、高校と大学の数学の格差を感じ、数学を通して「当たり前だと思っていた世界がそうでないことを知り」、「見方や切り口を変えると違う世界が見える、そこに自由な世界がある」と衝撃を受けました。そして、学部の4年間勉強しただけで高校生に数学が教えられるのかと不安になり、大学院で勉強することにしました。母校の大学院の修士課程に進み、2年間勉強しました。そのとき早稲田大学から非常勤で来ていた先生に誘われ、早稲田大学のゼミにも参加するようになりました。東京女子大学では進学する人も少なく、研究者を目指す環境ではありませんでしたが、早稲田大学の研究者を目指す同世代の人たちを目の当たりにして、自分の認識の甘さというのを痛感しました。しかしそこではじめて仲間ができて、ゼミで一緒にやることの楽しさというのを知って、博士課程に進むことにしました。修士のときに所属した研究室の男女比は、男性14人に対し、女性は榎本さんともう1人でしたが、特に女性であることの困難はありませんでした。逆に名前もすぐに覚えてもらえるし、わからないことがあると丁寧に教えてもらえたそうです。
  博士課程の時、非常勤の講師として、早稲田大学の附属高校(男子校)で数学を3年間教えました。そこで驚いたのが、「数学が嫌い、やっても意味がない、やらなくていい」と思っている生徒がいかに多いかでした。数学の面白さをまだ知ってもいないのに、どうしたら生徒に関心を持ってもらえるかを悩みました。この3年間、榎本さんは数学を教えることの現実の厳しさとやりがいを経験しました。
  その後、博士号を取って、理工学部の助手を3年間務めました。助手時代は「基礎数学Q&A」コーナーで、学部の学生からの数学の質問に答える仕事などをしていました。そして大学内に新たにできる女性研究者を支援する研究所で、理系の人を探しているとの知り合いの先生からの紹介で、現在の研究所に就職しました。

教えることにもいろいろな形がある

  大学院の博士課程まで進んだのだから、当然、数学の研究者を目指していたのだろうと思われるかもしれませんが、榎本さんは、一貫して「学ぶ楽しさ、喜びを教えたい」と思ってきました。今でもその気持ちは変わりません。ですから、現在の女性の研究者を育て支援する仕事は、榎本さんがずっと思い続けてきた仕事でもあるのです。通常の「先生」という形でなくても、このように「教える」ことに関わる仕事があるのです。そして、理系で培った知識や経験が生かされています。
  榎本さんは言います。「数学のひとつの問いは、解くまでに数年かかることもある。試行錯誤が未知の世界へチャレンジする力を育て、私を粘り強くしてくれました。今、立ち上がった女性研究者支援プロジェクトはまさに新しい分野へのチャレンジ。積み重ね、積み重ねてやっと得る数学を学ぶ道のりと通じています。」
  また、理系か文系か迷っている方へは、「ものを考えることが好きという人は理系向きだと思います。ひとつひとつ順番に階段を上がるみたいにものを考えていくのが好きな人はとても理系向きだと思います。」というアドバイスをいただきました。

(平成18年度インタビュー)

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