地域の中で老後を迎える~介護サービスで第二のふるさとを暮らしやすくする~山尾宏子さん

地域の中で老後を迎える~介護サービスで第二のふるさとを暮らしやすくする~山尾宏子さん
<プロフィール>
横浜市で介護を中心とした地域福祉事業をおこなっているNPO法人「有為グループ」の前理事長。現在もヘルパーとして活動に参加しています。生協活動を長年つづけ、生協の理事長を務めた後、「有為グループ」の設立に関わり、リーダーとして活動を引っぱってきました。(70代)
山尾宏子さんのこれまでと
生涯学習との関わり
高等女学校卒業後、自宅工場を改装したダンスホールの手伝いをしたのち上京し、ダンス教室に入学。その後、資格を得て、ダンス講師として勤務。
結婚。1年ほど働いた後、子育てのことを考えて退職。
30代前半で、横浜市に転居。生協活動に参加し、力を発揮するが、夫の大阪転勤に同行するため、活動を中断する。
3年後、横浜市に戻り、生協活動を再開。50歳頃から、理事を務める。
生協の福祉活動に参加し、1990年、生協主体の福祉団体「愛コープ」を立ち上げる。
1992年、生協から独立した福祉事業「たすけあい有為」を設立。
1999年、活動をNPO法人化し、名称を「有為グループ」に改める。
地域の中で老後を迎える~介護サービスで第二のふるさとを暮らしやすくする~山尾宏子さん
「有為グループ」の活動

「有為グループ」は、手助けを必要とする人びとに対して在宅福祉サービスやそれに関する事業をおこない、地域福祉の増進に寄与することを目的とするNPO法人です。もともとは、「たすけあい有為」として1992年から活動していましたが、1999年にNPO法人化し「有為グループ」となりました。
具体的な活動は以下の7つで、(1)家事援助及び身体介助に関する事業、(2)日帰り介助サービスに関する事業、(3)食事サービスに関する事業、(4)送迎サービスに関する事業、(5)介護保険法に基づく事業、(6)支援費制度に基づく障害者福祉サービス事業、(7)そのほか、目的実現に必要な事業、です。
以上7事業のうち、中心的な事業は訪問介護とデイ・サービス事業です。さらに、ボランティア的な側面の強い「たすけあい有為」の活動として、介護保険法では対象外となる人びとの介助・ケアにも当たっています。また、活動人員が多いため、月1500時間という、この種の活動としては異例の長時間体制が可能であるといった特徴も持っています。
山尾さんは、設立当初から「有為グループ」のリーダーとして活動を続けてきましたが、現在は理事長を後任にまかせ、ヘルパーとして活動に参加しています。

上大岡で生協活動に出会う

小学校6年までは群馬県前橋市育ち。その後岡山県に移り、1955年に20代で上京。玉置眞吉氏が主宰する玉置ダンス教室で、ダンスを学びました。その後、資格をとり、ダンスだけでなく人生について多くを教わった玉置氏のもとで、ダンス講師として勤務。生徒としてレッスンに来ていた夫と知りあい結婚し、さらに1年ほど講師の仕事を続けましたが、子育てのことを考えて、退職しました。
1964年、30代前半で、横浜市の上大岡に転居。この地で生協活動と出会います。誘われて入会した後は、無添加ハムや無着色タラコの製造に関わったり、自治会の約90パーセントの世帯をメンバーに組み入れたりと大いに力を発揮しました。その能力を見込まれ、理事にと誘われましたが、夫の仕事の都合で大阪へ転居することに。活動はいったん中止。3年後、再び上大岡に戻るとさっそく活動を再開し、50代に入る頃、再び誘いを受けて、理事を引き受けました。

生協活動から「有為グループ」設立にいたるまで

生協本部から、新しい福祉活動のまとめ役を乞われた山尾さんは、1990年に、すでに生協内で活動していた福祉グループを土台に、「愛コープ」を立ち上げました。
しかし、実現した「愛コープ」は、当初考えていたものとは違う形でスタートすることになりました。活動範囲が地域密着型ではなく、神奈川県全域と広すぎること。それにもかかわらず、地域ごとにヘルパーを派遣する体制が整っていないこと。特定の地域に活動件数が偏り、理事間に軋轢が生まれていること。独立採算の意識が浸透せず、生協に資金援助を期待する声も大きいこと。さまざまな点で不満がありました。
そこで1992年、生協から完全に独立した地域密着型の福祉事業「たすけあい有為」を新たに立ち上げました。このグループが、現在の「有為グループ」の前身です。
山尾さんたちがあくまで地域にこだわる理由は、ひとつには、子どもたちの故郷をつくるためです。しかしそれ以上に大きいのは、自分たち自身が老後を地域で過ごしたいという思いです。高齢を迎えて、子どもの家の近くにマンションを買ったり、老人ホームに入ったりという選択肢もあるでしょう。けれども、彼女たちは、これまで人間関係を培ってきた地域で、老後を迎えたいといいます。

活動を支えてくれる人びと

NPO活動やボランティア活動から得られる経済的報酬は、それほど多くありません。新しい事務所を借りるときなど、資金はむしろ持ち出し。しかし「私の喜びで、したいからやっている」と明るく言います。「お金も何もなくても、人のことしてあげられる幸せって、こんな幸せってないんです。それがわかったらどんなに楽しいか。お金じゃないのよ。1銭もいらないです。」
そんな山尾さんを身近で支えているのは、夫や息子たちです。夫は、「私の宿命で、お金については苦労するようにできている」という山尾さんの経済感覚とやりくりの腕を信頼し、生協、NPO、地域活動、生涯学習と広がる活動を、当初から好意的に支援してくれました。
活動をサポートしてきた息子は、1年ほど前に、音楽の仕事から転身。本格的に障害児の支援活動を始め、有為グループから独立して「ぽぽろ」という組織を立ち上げました。妻ともども、忙しく立ち回っているそうです。
もちろん、生協活動の仲間たちも、山尾さんが恩義を感じるよきサポーターです。

これからに向けて

「有為グループ」の活動のほかに、「みんなの茶の間」という会をつくりました。地域の高齢者が集まって、食事会や盆栽教室、手芸品の展示会などをおこなっています。その一方で、俳句を習い、夫と競って作りあうことも。通信教育で仏教も学んでいます。おかげで、葬儀やお墓についての相談に応じたり、話を頼まれたりする機会が増えたそうです。
今後も「有為グループ」の活動を続けていくつもりですが、それと同時に、息子が始めた障害児の支援活動「ぽぽろ」のことも気にかかっています。「ぽぽろ」を側面から支援していくことは、これからの課題の1つです。
後進に道を譲った現在でも、個人的な興味関心と地域の課題を結びつけながら、多面的に活動を続けていくスタイルは変わりません。そんな山尾さんの足どりは、若い世代の人びとにとっても、地域社会での暮らし方の参考になることでしょう。

(平成16年度インタビュー、平成18年度修正)

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