キャリア学習プログラム「カタリ場」が社会を変える~今村久美さん

キャリア学習プログラム「カタリ場」が社会を変える~今村久美さん
<プロフィール>
2002年慶應義塾大学卒。しばらくの間、人材・教育関係の事業をしている会社にアルバイトで高校生に情報を提供する仕事をし、やがて高校生に自分の人生を考えるきっかけを提供するキャリア学習プログラム「カタリ場」を開発した。特定非営利活動法人NPOカタリバの中心的な事業として発展し、さらには大学での導入や企業の人事に関するコンサルティング業務の受託という波及効果も生まれた。2008年、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009キャリアクリエイト部門を受賞。2009年6月、内閣府・男女共同参画「チャレンジ賞」を受賞。2009年12月、内閣官房内閣総務官室専門調査員任命。(30代)
今村さんのこれまで
2001年 慶応大学在学中に任意団体「カタリバ」を設立
2002年 慶応大学卒業
2006年 特定非営利活動法人NPOカタリバとなる。同年結婚
2008年 日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009キャリアクリエイト部門を受賞
2009年 内閣府・男女共同参画「チャレンジ賞」を受賞。内閣官房内閣総務官室専門調査員任命
2010年 「カタリ場」の年間実施校が80校と過去最高となる
自宅をシェアハウスにするとともに、震災後は東北と東京を行き来しながら暮らしている
「カタリバ」の立ち上げ

  今村さんは、学生時代にグループワークや先輩との関係のなかで鍛えられました。そして、「いつの間にか能動的になる自分を経験」し、「教育の役割とは人の内発性に火を灯すことに尽きる」という実感をもちました。しかし、成人式で帰省して久しぶりに友人に会うと、友人たちは勉強や大学に対する否定的な発言をしていました。その様子は、授業や学校に文句を言っていた高校生のときのままで、自分自身の高校生時代の姿と一緒でした。この経験から、「頑張ることは実は楽しいことなのだ」ということを実感できない日本の教育とは何なのだろう、と疑問に思うようになりました。そこで、高校生が能動性や内発性を育むことを手助けする仕事をしようと思い、その可能性を探ることにしました。
  そのような経緯から、卒業しても就職せずに「カタリバ」の活動を実体化させることを目指していました。そのうち、キャリア教育をコンセプトに事業を展開している進学情報会社から誘われ、アルバイトの形で事業に参加することになりました。そこでは、電話の受け答えや名刺交換の方法などを学ぶとともに、さまざまな階層の人がアルバイターやフリーターの境遇にあることがわかり、学歴社会や格差社会など現実の社会構造の実態を学ぶことができました。やがて学校回りの仕事を与えられ、高校で情報の授業も担当するようになりました。それを業務委託にしてもらい、請求書や領収書の発行方法を学ぶこともできました。

高校生のために

  その仕事は授業を通して進学情報を生徒に提供するのがメインであり、高校生のためになっているかどうか疑問が湧くようになりました。高校生が進学情報の入手や扱いを学ぶだけでなく、自分の人生を考えことができるような授業ができないものかと思っていたところ、「一緒にやりましょう」という高校が出てきました。そこで「カタリバ」をNPO法人とし、トレーニングを受けた学生ボランティアのサポートによって高校生が自分の生活や人生を考えるようなプログラムを確立させました。さらに、地方自治体の教育委員会からも委託業務として発注してくれるようになり、事業を拡大することができました。
  自治体からの委託は期間限定だったため、その後は各校が独自に予算を捻出しなければなりません。そのため、これまで以上に教師や生徒のニーズに対して的確に答える仕事が必要だということを痛感し、「私たちが本当に見なければいけないのは学校の先生と、生徒たちです。その人たちがいいと思えばお金を出してくれるのだから、本当の意味での商品価値を高めなければという気持ちになった」と語っています。

組織運営の試行錯誤

  組織運営については試行錯誤してきました。NPOは企業と異なり、ボランティアの力を活かしながら事業を行うため、自発性を損なってはいけません。職員の場合も、NPOでは個人個人が自分のミッションを持っています。一方で事業の商品価値を高めるためには、組織のミッションを堅持する必要があります。受益者は高校の教師や生徒であり、そのためには組織ミッションに基づく質の高い事業が求められています。個人ミッションを優先させると事業がうまくいきません。逆に、個人ミッションを無視して組織ミッションを押し付けようとすると「やらされている感じ」になり、職員もボランティアも離れていきます。そこで、「ボランティア・マネジメント」にエネルギーが取られたり、職員の個人ミッションへの配慮をしなければならないという苦労があります。このあたりが、「企業と異なるNPOの難しさ」であり、「NPOという形態を通じて(私が)学んだこと」だと言います。「NPOという形態で経営してきたからこそ学んだな、というのがひとつあります。それは、ボランティアも働く人も、個人ミッションを確認するのがすごく大事なことだということです。NPOにかかわる人は、やはり何かがしたくて来ているので、私の都合で動かそうとすると離職してしまう」と語りました。
  しかし、実は企業でもそこが大切だというのが今村さんの見解です。この経験を生かして、離職率の上昇に悩む企業に対するコンサルティングの仕事も引き受けたことがあります。NPOで学んだスキルを、いま企業の人事システムの中に提案できるのは、NPO活動を通じた学習の成果です。

モデルとなる人から学ぶ

  組織運営について、もうひとつ特筆すべきことがあります。今村さんは、もともとプライドが高く、自分ができないことを人に話すのには勇気がいるほうだったため、仕事は自分ができてからスタッフに説明しようとしていました。しかし、それでは自分もスタッフも、そして組織も成長できないことがわかりました。そこで3年前から、自分よりも経験のある人を組織に入れて、その仕事の仕方から学ぶことを心がけるようになりました。「有能な人に組織の中に有期で入ってもらって何か仕事をしてもらう、ということが何よりもの学びですね」と今村さんは語ります。ただのアドバイザーではなく、実際に業務を担当する力量も時間もあるプロボノの人たちを組織の中に入れ、その人たちと一緒に仕事をすることによって今村さん自身が学ぶということです。モデルとなるような人から学ぶことは、本やオーディオ・ブックなどで学ぶより効果が高いということです。こうして各種の専門的人材が入ってくれたことによって、数値をもって経営判断ができる状態になりました。これからも経営力を高めて事業性をきちんと担保し、「日本の教育に一石を投じるベンチャーになっていければいいな」と思っています。

(平成22年度インタビュー、平成24年度追記し掲載)

一覧に戻る

ページトップへ

女性情報ポータルWinet
  • 国立女性教育会館 女性教育情報センター

  • 〒355-0292 埼玉県比企郡嵐山町菅谷728/

    tel: 0493-62-6195/mail:infodiv@ml.nwec.go.jp