“頭脳派”集団が地域を変える~生涯学習からNPO活動へ~工藤 緑さん

“頭脳派”集団が地域を変える~生涯学習からNPO活動へ~工藤 緑さん
<プロフィール>
青森県弘前市で生まれ育ち、東京の短大に進学。都内を拠点に海外雑貨のバイヤーや店舗コンサルティングとして働いた後、30代半ばで弘前に戻り結婚。専業主婦として40代を過ごしました。40代の終わりに、「あおもり女性大学」に入学し、その仲間たちと「青森県男女共同参画研究所」を設立。現在、現在専務理事を務めています。(50代)
工藤緑さんのこれまでと
生涯学習との関わり
短大の法律学科を卒業し、就職。20代後半からは海外雑貨のバイヤーや、店舗経営のコンサルティングなどを務め、精力的に働く。
35歳のとき、長期休暇をとるつもりで弘前に帰郷。そこで結婚、出産し、専業主婦となる。
40代前後、何かしたいと思い始めた頃、両親が病気で倒れ、約3年半、看病をする。
50歳を控えた頃、夫から何か活動を始めたらとアドバイスされ、「あおもり女性大学」を受講。また、子供たちのスポーツ活動をサポートするグループにも参加。
2年間の講座修了後、同級生とNPO法人「青森県男女共同参画研究所」を設立。
“頭脳派”集団が地域を変える~生涯学習からNPO活動へ~工藤 緑さん
「青森男女共同参画研究所」の活動

「青森県男女共同参画研究所」は、その名前のとおり、調査研究を中心としながら、各種研修、講師派遣、講座の企画などを通して、男女共同参画の推進を目指すNPO法人です。
活動は5つの部門に分かれています。1つ目は県の女性センターに講師を派遣したり、独自に講演会や講座などを企画運営したりする「事業部会」。2つ目は調査研究を担当する「調査研究部会」。3つ目は、男女共同参画エンパワーメント研修をおこなう「研修部会」。4つ目は、会報・ホームページなどによるさまざまな広報活動をおこなう「広報部会」。最後の5つ目は「報告書作成部会」で、行政や企業のアウトソーシングを請け負い、県の審議会や委員会の議事録のテープ起こしなどをおこなっています。これは、活動の収入源の1つになっています。
工藤さんは現在、このNPOで専務理事を務めていますが、事務局として管理運営も担っており、活動になくてはならない中心人物の1人です。

仕事に情熱をそそいだ日々

青森県弘前市で生まれ育った工藤さんは、高校まで弘前で過ごした後、東京の短大に進学。当時の女性としては珍しく、法律学科に入学しました。これは、女性もこれからは能力が必要とされる時代になる、進学するなら社会に出て役に立つものをやりなさい、という父親のアドバイスの影響によるものだったといいます。その後、大学に編入するチャンスもありましたが、当時は学生運動が激しく、混乱する大学に失望したため、進学を断念。働く道を選びました。
20代の後半からは、海外雑貨のバイヤーや、店舗経営のコンサルティングなどを1人でやってきました。バイヤーの仕事というのは、ヨーロッパを中心とする海外雑貨の買いつけ。当時はまだ単身で海外へ行く女性がめずらしく、知人から依頼を受けたことがきっかけで始めました。コンサルティングの仕事では、新規開店のお店などに対して、客の動向、客数、ターゲットや売れ筋の絞込みなどを分析して提供。20代から30代半ばにかけて、まさに精力的に働きました。

故郷に戻って結婚、育児と介護の毎日

35歳のとき、仕事に忙殺される生活から離れて少しゆっくりしたいと思い、半年ほど休暇をとるつもりで、ふるさとの弘前に帰りました。
そこで、高校時代の先輩に20年ぶりに再会し、結婚。子どもを生んだ後は仕事もやめ、専業主婦としての生活が始まりました。
40代にさしかかり、そろそろ何かしようと考え始めた頃、両親が倒れ、入院。それ以来、約3年半にわたって看病に追われる日々をすごすことになりました。兄弟の中で働いていないのが工藤さんだけだったこともあり、自分の子どもの世話、病人の看病、兄弟の子どもの世話と引っ張りだこで、パートに出るどころではなかったそうです。

女性大学の仲間と「青森県男女共同参画研究所」を結成

育児と介護から解放され、50歳になろうという頃、夫の「つまらなそうにしている、あなたらしくない」、「だめになるのを僕のせいにしてほしくない、表に出て何かやれば」という言葉をきっかけに、第二の人生を考えはじめました。
そんな折、青森県男女共同参画センター主催の生涯学習プログラム「あおもり女性大学」の紹介を新聞で見つけ、受講を開始。ここに行けば、女性の自立や社会的なアピールについて、一緒に考え、行動できる友人が見つかるのではないかという期待があったからです。
「あおもり女性大学」は2年間のプログラムで、1年目は女性学を中心に学び、2年目は論文指導を受けて、全員が卒業論文を作成します。論文執筆という経験をとおして、調査研究に「目覚めてしまった」受講生は、「卒業後も勉強を続けたいよね」と意気投合。2001年に、新しく「青森県男女共同参画研究所」という研究グループを結成しました。
グループ結成を後押しした理由は、もう1つあります。女性大学のメンバーたちは、学習だけでなく、地元でさまざまな活動をしていました。工藤さんも、「聞くだけじゃだめ、実践しないといけない」と思い、地域の子どものスポーツ活動を支援するグループに加わりました。活動を続けるうちに、各地域にいるであろう未来の仲間を掘り起こしていくためにも、こうしたネットワークを維持していきたいと思うようになったといいます。

NPO法人化とその後

青森県男女参画研究所は、2002年にNPO法人に移行。この年の夏、研究所のメンバーは、当初の念願どおり、調査研究に着手。青森県男女共同参画センターからの委託により、「青森県のマスメディアに対する現状調査」をおこないました。県内の新聞社、テレビ局、ラジオ局、計6社について、(1)組織の男女構成、労働構成、(2)社員の意識、(3)報道内容、という3つの点から調査分析したもので、調査結果は、2003年の4月に東奥日報に掲載されました。
それと同時に、講師派遣、講座や研修の企画運営などでもコツコツと実績を積んでおり、活動は着実に成果を伸ばしつつあります。
しかし、収入の少ないことは相変わらずで、運営に関して人件費を捻出するどころではありません。事務局の運営についても、工藤さんが全面的に無償で受け持っているのが現状です。
NPOに参加した最大のメリットは、仲間を得たこと。忙しくて寝る暇がなくなるたびに、「なんでこんなことをやっているんだろう」と思うこともありますが、ヤマを越えると、またやる気がわいてきます。「共通の目的をもった仲間っていうのはいいなって思う」という気持ちは変わりません。
調査研究、講演・研修の企画という一見地味な方法をとりながら、影響力のあるメディアを研究対象に選ぶ。工藤さんたちは、そんな戦略をもつ知的集団です。その牽引役を務める工藤さん、これからも仲間を増やし、知的かつパワフルな活動を展開していくことでしょう。

(平成16年度インタビュー、平成18年度修正)

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