生涯学習をステップに人とつながる~女性センター相談員、ライター、ボランティア活動 川瀬千穂子さん~

生涯学習をステップに人とつながる~女性センター相談員、ライター、ボランティア活動 川瀬千穂子さん~
<プロフィール>
首都圏の女性センター相談員。子育てに悩み、同じ悩みを抱える母親たちで市民グループを結成し、このグループを中心に、子育てやそれを取り巻く環境、ジェンダーなどの問題を議論・提案し、望ましい環境を実現しようと周囲の人々や行政などに働きかけてきました。そのためのミニコミも発行、ライターとしても活躍しています。(40代)
川瀬千穂子さんのこれまでと
生涯学習との関わり
大学卒業後、スポーツ用品の販売会社に入社。
2年勤めて退社し、実家に戻って家業の旅館を手伝う。
結婚して横浜に転居。パートで出版社の受付の仕事をしたが、出産をきっかけに辞める。
自分の生活に疑問を感じるようになり、新聞で知った育児サークルに参加。しかし、自分のやりたいことが見出せず、模索を続ける。
市の婦人開館で開かれたシンポジウム「町は私たちの手で変えられる」に参加。また、隣区で開催されたジェンダー講座を受講。
地域の母親仲間と共に「子育て環境を考える会」を結成。学習会を手始めに、提言活動、学習講座の開催などに活動を広げていく。
ジェンダー講座に刺激を受けて、自分たちの区でも講座を開きたいと思い、有志で区の生涯学習支援センターに企画を持ち込む。
講座「ダメなママでもいいじゃない」を実施。講座修了後、受講生の有志と共に情報誌「ママコミ」を発行。
2002年より、女性センターに相談員として勤務。
生涯学習をステップに人とつながる~女性センター相談員、ライター、ボランティア活動 川瀬千穂子さん~
女性相談員+ライター

川瀬さんは、市の女性センターで2002年から相談員として働いています。勤務は週に3回、10時から17時まで。電話相談や来所相談を受けています。相談の内容はさまざまですが、川瀬さんは女性の生き方に関する問題を扱うことが多く、ジェンダーの視点を活かして相談にあたっています。福祉の問題や家庭内暴力などの相談もあります。
川瀬さんは、前からこの種の仕事をしたいと考えて情報を集めていました。そんなとき、別の女性センターで働いている友人が募集していることを教えてくれたのです。収入は年間140万円程度。経済的に自立できる額ではありません。しかし、相談員の仕事はこれまで自分が学んできたことを活かすことができ、男女平等の実現に関わることができ、さらに自己実現できるという点で、川瀬さんにとって理想の仕事だといいます。
この行政がおこなっている相談のほかに、市民グループを立ち上げたときから続けているボランティアとしての相談活動もおこなっています。また、子育ての環境を良くする活動を通じて女性3人で起業した編集室と出会い、今はそのスタッフとして、ミニコミ紙などに記事を書いています。これも収入としては小さなものですが、社会への働きかけの場として大事な仕事だと思っています。

相談員までの道のり

川瀬さんは秋田県で生まれ、首都圏の大学の英文学科を卒業。卒業後は好きな英語を活かせる仕事をしたかったのですが、結局はスポーツ用品の販売会社に入社しました。しかし、仕事に面白みが感じられず、退社。実家に帰って親が経営する旅館の手伝いをしていましたが、28歳のときに結婚し、横浜に移りました。その後、1年ほどパートで出版社の受付の仕事をしましたが、妊娠をきっかけに辞め、子育てに専念するようになりました。
一番上の子が2歳になった頃、何か変だと疑問を感じるようになった川瀬さんは、新聞で知った「子育ても大事。でも、自分も大事」という育児サークルに参加してみました。そこでは、母親たちがさまざまなグループをつくって活動していましたが、どれも自分が本当にやりたいこととは違うような気がしました。子育ては自分がしなければならないし、子どもは可愛がらなければならない。でも自分がやりたいことはこれとは違う。自分はいったい何をやりたいんだろうと悩み、苦しい時期が続きました。
そんなときに参加したのが、横浜の婦人会館で開かれた「町は私たちの手で変えられる」というシンポジウムです。川瀬さんにとって初めての生涯学習でした。さらに、隣の区が開催したジェンダーに関する講座でも学び始め、両方から大きな影響を受けました。この講座から多くを得た川瀬さんは、自分たちの区でも講座を開きたいと3人で企画し、区の生涯学習支援センターに持ち込みました。これが「ダメなママでもいいじゃない」という講座です。受講生の中には、今後も活動を続けたいという人が10人ほどいました。そこで、その人たちと「ママコミ」という情報紙を発行。地域の情報紙を出したいという長年の夢が実現しました。
その一方で、自分たちの住んでいる地域に子育てのための施設が十分にないことに気づき、同じ思いを抱いている母親たちと「子育て環境を考える会」を結成。中心メンバーは3人で、川瀬さんと絵本の読み聞かせの会で出会った仲間2人です。グループではまず、行政の仕組み、社会の仕組みを勉強することから始めました。このときの学習も、川瀬さんのその後の活動を支えるベースになっています。グループの活動は、行政への子育て支援策に関する提案書の提出、生涯学習の講座の開催、情報紙の刊行へと広がっていきました。

人とのつながりからキャリアを実現

川瀬さんのキャリアへの道のりをふりかえってみると、良き仲間、良き指導者とめぐり合っていることがわかります。絵本の読み聞かせの会では子育てに悩む親どうし交友を深め、生涯学習を受講した仲間とは、その後も長く活動をともにしています。川瀬さんがロールモデルにしているミニコミの主宰者には、直接会ってアドバイスを受け、背中を押してもらいました。勉強会に呼んだ講師の先生とも、その後も長く関係を保ち、影響を受けています。
今では理解者である夫も、当初は「妻は家で家事と子育て、自分は外で働く」という考え方だったので、活動を始めた頃は、よく衝突しました。夫にもっと家事や育児をして欲しいという要求をストレートにぶつけて、喧嘩になったこともあります。仕事一筋の夫を「そんなに仕事がんばらなくてもいいんじゃない」と柔らかく諭すような言い方は、まだ思い浮かばなかった頃でした。
子どもは1人目を幼稚園、2人目から保育園に通わせました。育児について学ぶうちに広く社会的なつながりのある場で育てた方がいいと思ったからです。活動のため家にいない時間が多くなりましたが、大事なことは家にいる時間の長さではなく、どんなふうに子どもと向き合い、一緒に過ごすかだといいます。

生涯学習をステップに

現在川瀬さんは女性センター相談員、ミニコミ紙のライター、ボランティア活動家と3つの役割をもっていますが、どれも生涯学習と深く関係しています。子育てで満足している母親もたくさんいる中で、川瀬さんは学びによって、母と子が密着して社会から孤立していく危険に気づきました。また、自分が感じてきた苦しさが性別役割分業からきていること、個人の苦しみが社会的・政治的問題からきていることを理解し、この仕組みを変えるためには社会に働きかけなければならないと思うようになりました。ともに行動する仲間や、活動の助言者と出会うこともできました。
川瀬さんは、生涯学習をただ受講するだけではありませんでした。それをステップとして、自分たちで講座やシンポジウムを企画しています。その積極性が、相談員として採用されることにもつながったのではないでしょうか。

(平成15年度インタビュー、平成17年度掲載)

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