企業の研究所で働く
関根さんは現在、3歳の子どもを育てながら、大手印刷会社の事業部の研究員として、液晶ディスプレイの品質向上のための部材を作る仕事をしています。
入社以来、基本的にはずっと、光や液晶に関するさまざまな研究にたずさわってきました。民間企業の研究所であるため、研究の目的は、具体的な製品を作るために、製品の重要な部材を開発することです。現在は、より広い角度から見ても色が変わらないような質の高い液晶ディスプレイを作るためのフィルムの開発を担当。それ以前はホログラム(三次元写真)の研究や、液晶を使った光学材料の作成に当たっていました。最近では、自分の研究をするだけではなく、後輩の研究員を育てることも仕事の一部となっています。
物理の面白さに出会った学生時代
両親は文系でしたが、祖父が理系の仕事をしていたため、理系のものの見方に対して抵抗がなく、学校では文系より理系の勉強のほうが好きでした。大学で物理を選んだのは、特に将来の夢や、つきたい職業があったわけではなく、「物理が好き」だったからでした。特に物理が好きになったのは、高校のとき、女性の物理の先生に教わったことがきっかけだそうです。
その先生は、とても厳しく、平均点が30点になるような試験問題を平気で出題するような先生でしたが、その厳しさがとても「カッコいい」と感じました。先生の期待が高くハードルが高い分、逆にやる気がわき、物理が楽しくなりました。
女子大の理学部に進学し、研究者への路を決定することになったのは、大学3年生のときの大学祭での経験でした。大学祭で、関根さんは、実験の授業で興味をもったホログラムをテーマに、仲間と研究発表を行いました。ホログラムというのは、角度を変えると違う画像が見える「三次元写真」のことで、一万円札などの印刷(表面下のきらきら光る部分)にも使われています。先生の指導のもとで仲間と実験を続けるうちに、すっかりホログラムの不思議さや美しさに引き込まれ、本格的に研究したくなりました。そして指導してくれた先生のもとで卒業研究をすることに決めました。
女子校で培ったリーダーシップ
関根さんは中学から大学まで女子校育ちで、「女子校での学校生活で、現在の研究所での生活を快適に過ごせる態度や力がつけられた」ことを、就職してから気がついたそうです。女子だけの学校生活の良さは、「何でもやらなければならなかったので、本当にいろいろな活動ができて楽しかった。委員もいろいろ任されたし、運動会や球技大会などの運動系の実行委員は毎年全部やった。力仕事もやった。そうした活動をとおして、集団を動かすコツや、コミュニケーションの大切さ、責任感、リーダーシップなどを身につけることができた。これらの力やコツは全て職場で役に立っている。女子校ならではの良さと、感謝している」といいます。
大学院進学ではなく、企業への就職を選ぶ
関根さんは、仲間との研究を通じて「モノづくりのおもしろさ」を知り、「モノをつくるのなら製品化までたどり着きたい。製品を作るのなら、一般消費者の手もとに届くようなモノをつくりたい」と思うようになっていました。そして、そのためには企業に就職した方がよいと考え、研究職として採用してくれるところを探し始めました。研究職として就職するなら大学院に進んだ方が有利で、先生も進学して、さらに研究を続けることを熱心に勧めてくれましたが、迷いはありませんでした。
「学部卒で研究職を採用してくれる企業」を徹底的に調べ、直接電話をかけるなど、必死に探しました。現在の研究所が見つかり、面接を受けました。採用されても研究職に配属されるかどうかは約束できないと念を押されましたが、面接では、大学での研究と、これからやりたいことを懸命にアピール。研究や仕事のことをざっくばらんに話すことができたことがうれしかったので、受かったら就職することに決めました。幸い採用され、しかも人気の高い基礎研究のできる中央研究所に配属されました。当時、女性は研究職の中で約1割、しかも学部卒で基礎研究に配属されるのは、非常に幸運だったと思っています。
少ない理系研究職の女性
職場で女性として、特に不利を感じずにやってくることができましたが、それは自分から理解してもらえるよう努力し、つながりを作っていくことができるかどうかがポイントだそうです。入社時に1割程度だった女性の割合は現在徐々に増えていますが、管理職の女性はまだ少なく、最年長でも30代後半です。しかし、研究の仕事は、性別は関係なく、実験の進め方や仮説を立てて検証し、考察するという思考のプロセスが向いているかどうかだと感じているそうです。
育児との両立は「なんとかなる」
同じ職場の研究員と結婚し、3年前に子どもが生まれました。研究所の近くに住み、夫と協力しながら、仕事と子育てをうまく両立させています。
夫婦とも職場はフレックス制。現在は子どもを保育園に迎えに行くため、周囲の了解を得て、早め(6時ごろ)に退社しています。もちろん、働く時間が短いことを言い訳にしないよう努力し、限られた時間の中で効率よく仕事を済ませています。仕事量は増えましたが、働く時間はむしろ短くなったそうです。自分ができない分は、人に頼むこともあります。人から助けを借りるには、「この人のためなら協力してあげよう」と思わせる、日頃の努力がものをいいます。「自分の態度によって、次の世代の女性に対する見方も変わってくるので、自分さえ良ければいいというわけにはいかない」という責任も感じています。
仕事と家庭の両立については、「なんとかなる」というのが今のところ関根さんの結論です。実は結婚前は、実家でまったく家事をやっていませんでした。「友達には、「あなたにできるなら私にもできる」と言われていたけれど、実際なんとかなった」と笑います。出産して仕事に復帰し、大変なときはレトルトを利用するなど、あまりきっちり枠を決めずにやっています。いろいろな方法があるので、何事にもとらわれず、優先順位を決めることが大事と考えています。
後輩女性へのアドバイス
関根さんは、仕事の中で一番大事なのは、人とよくコミュニケーションを取ることだといいます。就職して、楽しく働くためには、コミュニケーションが不可欠であり、周りのいろいろな人と会話ができること、知らないことはどんどん聞いて、吸収することが大事です。「人とのつながりは大事にしたほうがいい。絶対、誰かに助けてもらうことになるので。」職場でも、育児でも、周囲に協力してもらうための努力を惜しまないことが、両立を成功させる鍵のようです。
(平成17年度インタビュー、平成19年度掲載)