化粧品と化粧についての知識を広めるために
長沼さんは現在、主に皮膚科のお医者さんに向けて、化粧品や化粧の知識を知ってもらうための仕事をしています。
以前皮膚科では、化粧品は皮膚には良くないものだから使わない方がいいと言われていましたが、スキンケアという言葉が一般化したように、皮膚にとって重要なものだと認められるようになってきました。皮膚の病気や傷を治すわけではないけれども、健康に保つためには必要なものであり、そしてさらに最近は一歩進んで、メイクアップ等もあざやシミをカバーして目立たなくさせる役に立つということも分かってもらえるようになってきました。そういう化粧品の知識を広く知ってもらうため、皮膚科の先生向けの雑誌を出したり、ホームページで情報を出したり、皮膚科の先生たちが多く集まる学会でセミナーを開いたり、といろいろな場面で紹介を重ねています。
ずっと続けられる仕事に就きたい
長沼さんは高校に入った頃から、自分の好きなことをやるには人に依存していたのではだめだと思い始めます。人に依存していたのでは遠慮もあるし、自分の食い扶持は自分で稼ぐべきだ、それを稼ぐための仕事はと考えたとき、文系の大学を卒業した女性がずっと続けられる仕事なないのではないか、理系だったら、研究者でも学校の先生でも薬剤師でも、とにかくずっと続けていける職業に就くことができるのでは、と理系の大学へ進学することにしました。
ずっと続けていける職業に就くために理系を選んだのですが、当時はまだ理系の四年制大学を卒業した女性を採用する企業はほとんどありませんでした。心配した就職担当の先生が、資生堂が女子学生を募集しているという情報を掴んできてくれたおかげで、試験と面接を受けて無事に合格し、就職が決まりました。学生生活では男女による差別を感じたことはありませんでしたが、いざ就職となるととたんに女性は選択の幅が狭くなってしまうような状況が、その時の日本社会の現実でした。
人を美しくする仕事
配属になったのは幸運にも専門を活かせる研究所でした。そして1年後、資生堂100周年記念行事の「光と皮膚のセミナー」(1972年11月開催)に向けて、光毒性・光アレルギー、サンスクリーン(紫外線防御製品)の研究チームに入ったことが、長沼さんのその後のキャリアの原点となりました。以後28年間、サンスクリーンの研究とともに、紫外線が皮膚に当たるとなぜシワやシミができるのかということなどいろいろな研究をして、研究の面白さを感じてきました。長沼さんは、化粧品の研究は、非常に奥が深くて難しいところはあるけれど、人を美しくするということを考えると、とても楽しい仕事だといいます。
走りながら子育てと仕事
長沼さんは30歳前後に二人の子どもを産み、育てながら、仕事を続けてきました。何が一番困ったかというと、保育園のお迎えの時間だったそうです。職場を定時に飛び出して、電車、バスを乗り継ぎ、渋滞だと途中で降りて走りました。それでも仕事を辞めるということは、一回も考えなかったということです。そして30代は確かに大変でしたが、子どもの手が離れるに従って、仕事に重心を移していきました。
新しい仕事にこれまで研究してきた自分を生かして
研究所から資生堂本社で働くことになった当初は、研究ができなくなるのは寂しいと思いましたが、研究をやってきた自分だからこそこの仕事で伝えられることがあると考えると、研究所でやってきたことは全然無駄ではなくて、むしろ活きていると思うようになりました。それに、仕事というのは100%自分のやりたいことをやれるわけではないのだから、どこかに一つでも自分のやりたいことを見つけて、そこに喜びを見出してやっていけばいい、そう思って長沼さんは仕事を続けてきました。
自分の興味を専門分野につなげていく
長沼さんは、紫外線に関係する化粧品やサンスクリーンについて長年研究を続けてきて、この分野については日本のみならず国際的な委員会にも参加するまでに極めてきました。その自分自身の経験から、このことについてならあの人に聞いてみよう、と言われるような専門分野を自分で持つと強みになるといいます。自分はこのことについては強い、と思えるようなもの、それは別に大きなことでなくてもいいのです。はじめからすぐわかるものでもないので、いろいろやっていくなかで見つけていくしかありません。また、それは人から与えられるものではなくて、自分で見つけるしかないのものです。その人のすべてを生かせる場所などないのだから、あまり構えすぎず、考えすぎず、興味をもったことをやってみればいいのではないか、と長沼さんは思うそうです。
例えば化粧品に興味を持っていたら、マスカラってどうして伸びるのかな、と思いませんか?あれは何でできているのとか、すぐ乾いてくれないと目の回りに付いてしまって困るから速乾性がないとダメだとか、自分自身の経験からいろいろ興味を持つことがあると思いますが、そういうところはみんな化学で解決するのです。そういうところを考えてみるとなんとなく化学の仕事や、理系の仕事をイメージすることができるのではないでしょうか。
(平成18年度インタビュー)