「アクト・ローカリー」で、市役所で技術職として働く~市民とともに身近な環境問題を考える~松尾恵子さん

「アクト・ローカリー」で、市役所で技術職として働く~市民とともに身近な環境問題を考える~松尾恵子さん
<プロフィール>
市役所の環境保全課に勤務。中学校、高校2年生まで文系でしたが、環境問題への関心から理系に転進。東京農工大学に進み、生活と密着する水質汚濁を研究。社会的な問題意識が高い先生、先輩、友人らとともに議論する日々を過ごし、市民活動にも参加して、大いに刺激と影響を受けました。市役所に技術職として入り、現在、環境の監視調査、環境学習、環境基本計画の推進を考えるための場づくりを行っています。(30代)
松尾恵子さんのこれまで
高校2年生後半の進路指導で、何をやりたいのかよく考えなさいと言われ、やりがいや興味という点から、突然理系に転進。
一浪後、志望通り、環境保護を学べる大学に進学。
学生時代サークルや研究室で、市民団体をたくさん見たことから非常に影響を受ける。
自分の生活と密着している水が汚れるということに興味を持ち、土壌水界環境学研究室に進む。
「シンク・グローバリー・アクト・ローカリー」というフレーズの影響があり、ローカルに仕事をしたいと思い、市役所に化学の技術職として入庁。
1年目は環境保全課公害係で川の監視調査や工場指導、環境学習事業に携る。3年目に結婚。
水道部給水課に異動して4年間漏水やメータ交換を担当。
また環境保全課に戻って、現在3年目。主任となる。
「アクト・ローカリー」で、市役所で技術職として働く~市民とともに身近な環境問題を考える~松尾恵子さん
水、生活に密着する環境問題

  生きるのに誰もが必要としていて、生活に密着している「水環境」が、松尾さんの専門分野です。環境が良好に保たれているか監視する調査をしながら、工場や事業所が仕事をする際、公害面での規制が守られているかをチェックし指導する仕事をしています。その他に、環境問題を広く知ってもらうための環境学習事業も行っています。環境基本計画ができてからは、環境問題に市、市民、事業者が連携して取り組む仕組みをつくるための、三者による推進協議会といった、話し合う場づくりの仕事にウエイトが高まってきています。

文系から理系へ突然の転身

  子どもの頃から自然や植動物が好きでしたが、教科では美術と英語が好きで、海外とかかわりのあるような仕事につきたいというのが、高校までの夢でした。しかし、高校2年生ぐらいから、もう一回何をやりたいのかよく考えなさいという進路指導を受け、やりがいや興味という点から、突然理系に転進することを決心しました。その決心に影響したのは、ちょうど地球環境汚染についてテレビで放送されるなど、環境問題が話題になってきていた時期であったこと、自然調査をライフワークにしていた、生物の若い先生が生態学を教えてくれたことがありました。女性の化学の先生が、ダイオキシンの話やごみ処理問題について、生活に密着した化学の話を聞かせてくれたりしたことも影響が大きかったということです。そして先生からはかなり厳しいと言われながら、同じ様に苦手ながら理系をめざす女子生徒数人が先生にお願いして、化学、数学の補講を受け、先生たちに親身に助けてもらいました。その中で感じた、授業では見えなかった先生方の学問への探究心に触れたのも、印象深かったということです。

議論の中から多くを学ぶ

  理系への転進は非常に大変でしたが、一浪して当時唯一「環境保護」という名前を前面に出していた東京農工大学環境保護学科に入ることができました。そこで松尾さんが興味を持ったのは、水環境でした。自分の生活と密着している水、その水が汚れるということに感覚的に興味を持ち、水を取り巻く環境問題を学びたいと思ったのです。
  そして進んだ土壌水界環境学研究室の小倉紀雄先生は、市民活動を大事にしていて、研究するだけではなく、それを社会にどう還元して人に伝えていくのかをすごく大事にする方でした。松尾さんも学生時代から市民団体の分析を手伝いに行ったり、そういう市民団体を多く見て、生活者として研究・活動している姿に、非常に影響を受けました。また、問題意識の高い先生、先輩、友人たちが多く、環境とは何ぞや、などいつも議論しているような日々でした。授業形態も議論をとり入れたものがあり、実習で山に行っても夜は議論、サークル活動の後バーベキューをしていても議論する、それは松尾さんにとって大きな経験で、理論的に考えるのが苦手だったので、その中から多くのものを学んだといいます。

フィールド重視と市民のパワーへの信頼

  地球環境問題への取り組みでキーワードとなって頻繁に出ていた「シンク・グローバリー・アクト・ローカリー(地球規模で考え、地域で行動しよう)」というフレーズの影響で、地域で仕事をしたいと思って選んだ今の仕事には、自分の生活にとって本当に身近な社会問題に取り組んでいる楽しさがあるといいます。大学の先生方が、フィールドを大事にして現場を重視しなさいとおっしゃったこと、市民の方がものすごいパワーを持っているといって、市民環境科学という考え方を教えてもらったことを、ずっと大事に思ってきました。
  また、現在は休止していますが、松尾さん自身、仕事以外で環境に関わる市民活動をしてきて、活動をしている女性たちのパワーや、人生観にとても大きく影響を受けたそうです。

地方公務員という仕事

  今の市役所での仕事は、興味があれば、幅広い社会問題に携われる可能性が大きくあります。反面、専門を大事にしたい場合は、自治体の規模や方針、職種によりますが。市役所では難しいのが現状と感じています。松尾さんも入って9年目から4年間、水道部給水課でメーターの取り替えの仕事を担当し、30人中女性一人、周りは土木系の専門職の男性ばかりだったときは、市役所に入った以上、専門以外の仕事も覚悟していたとはいえ、戸惑うことも多かったそうです。だからこそ松尾さんは、ライフワーク的にやりたいことは持っていようと考え、環境のことや、趣味の活動を続けてきました。市役所に入ったらいろいろなことができる、逆にやりたいことができないこともある、だからやりたい部分はプライベートのところで自己実現していこうという考え方で、仕事と市民活動に携わっています。

生活者として役立つ化学の知識

  最後に、女性で理系に進みたい方へのメッセージとして、「今、化学物質が日常生活に欠かせないものになっているので、生活者としても化学の知識は決してむだではないと思います。市役所の環境以外の部署でも、給食や、建築のシックハウスや、保育所のおもちゃとかが問題となって、相談を受けたこともあります。そして理系の、問題解決して、課題抽出をするという科学的、定量的な考え方は、市役所の社会問題を解決するという仕事にとても役に立ちます。また、女性の場合、結婚、出産、体調の変動など、仕事を一定にこなすのが難しい局面が出てくることも、まだ現状の社会では多いので、そのような場面でも理系というスキルがきっと活かせると思います。」という言葉をいただきました。

(平成18年度インタビュー)

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