大学4年生のとき科学タレントチーム「ザ・コスモス」を結成
山口の自然がいっぱいの環境で、父親が公務員、母親が教員という家庭に育った田子さんは、小さいころから国語が得意で、自分は将来、国語の教師になると思っていました。
大学は兄が東京に出ていたこともあり、早稲田大学第一文学部に進学、日本文学を専攻しました。ところが下宿生活を1年送るうち、その当時女子大生の就職の難しさを感じ、実学を学ぶところでなかったこともあり、「この先には何もない」と考えるようになりました。そこで社会に出て行くことを決め、大学2年生から企画会社でアルバイトを始めました。ちょうどその頃は、イベントが華やかな時代だったこともあり、いろいろな大学から学生が集まっており、友達もできました。そしてイベントや展示会の仕事を手伝い、ワープロもなかった時代、企画書を清書するところから始まって、だんだん自分たちで企画書を作るようになりました。物事を項目立てて表記し、しかも相手に説得力をもって伝えるということに開眼し、とても勉強になったといいます。
大学4年生のとき、企画会社で知り合った女子大生たちと何かをやってみようということになり、9人で科学タレントチーム「ザ・コスモス」をつくりました。その夏に経団連軽井沢フォーラムで1時間の枠をもらい、「情報通信が世の中をどう変えていくか」を切り口に、ニューメディアの使い方を女子大生の目線で提案しました。このサイエンスショーは大変評判がよく、その後次々と仕事が飛び込んできました。当時女性の就職はとても厳しく、また勤めても25,26歳で辞めてしまうことがほとんどだったので、それならばこの活動をそのくらいの期間やっても、というくらいの気持ちで続けました。そして大手企業からも直接仕事が入るようになり、仕事を請けやすくするためにチームを会社組織にし、社長に就任しました。現在の「株式会社コスモピア」の誕生です。
コンセプトは「難しい科学技術をやさしく伝える」
自分は文系の人間で理科は苦手だと思い、当初は科学技術を身近に感じていませんでした。けれども改めて科学を勉強してみたところ、情報通信、エネルギー、バイオテクノロジーなどたくさんの分野が出てきて、一つ一つ見ていくと全部自分の生活に関わってくることがわかりました。それなのに、自分に関わってくることを何も知らないで、全然知らないところで世の中がつくられて役立っていて、本当にそれが最後の最後でかたちになったところで享受をする、自分はそれで良いのか、もっと早いところから関わって知ったほうが良いのではないかと考えるようになりました。
「難しい科学技術を自分たちの言葉に置き換えてわかりやすく伝える」をコンセプトに、活動が始まりました。最先端技術に関するイベントなどでお客様に製品や技術を説明、企画制作や展示案内、さらにはマニュアル制作やテクニカルガイドなどの仕事に携わりました。
同時に会社組織にしたことで、雇用機会均等法以前のこともあり、能力があっても仕事を得られないでいる女性たちの働く場としての役割も担い始めました。科学技術と女性の感性、能力が結びつき、仕事は展開していきました。
その後今日にいたるまでコスモピアは、IT(情報技術)と企業をつなぐコンサルティングやプロデュース、ITシステムの導入に伴うサポート、ヘルプデスクの運営、人材派遣、パソコン教育事業、出版、Web系コンテンツの制作など様々な事業を展開しています。
子どもたちに科学にふれる機会を与える
田子さんは25歳で結婚、26歳で出産し、母とパートナーの手を借りて子育てをしながら仕事を続けてきました。この子育ての経験を生かし、これまでに、親子向けに科学教育に関する本の出版や、子どものための科学のホームページ「かがっきーず」を制作・運営するという仕事を手がけています。
こうした事業を始めたきっかけは、自身が科学技術にふれ始めたとき、「科学技術を知る機会がなかった自分」に愕然としたことにあります。
小さいころは虫や魚、植物という自然に親しんでいたにもかかわらず、理系に進むことをまったく考えなかったのは「きっかけがなかったから」ということに気づきました。身の回りに理系の人間がおらず、理系の方向に導いてくれる経験もなかったため、早い段階で理系への進路が断たれてしまっていたのです。このことから、誰にとっても理系と文系、両方の選択肢が用意されている状況をつくることが必要だと思いました。また「女性は理系に弱い」といつの間にか刷り込まれていますが、女性にも理系の選択肢があることを示したかったといいます。
「世の中は変わる。今現在だけにとらわれず常に先を広く見る」
女子中高生に向けて、田子さんからは二つのメッセージをいただきました。
ひとつは「科学的なことに関する興味、関心を高めてほしい」というものです。「理系にかかわらず、どのような仕事に就くにしても、現代は科学的な視点・思考方法、IT、そういうものとは関わりなしには生きていかないわけですから、それを認識して受け入れていくという姿勢はもってほしいですね。」
もうひとつは「世の中は変わるので、常に先を、前を、横を広く見てほしい」というものです。「今は無理とか難しいとか言われていることでも、数年後には技術的に可能になることも大いにありえるので、今の世の中だけを見て、自分の進路を決めすぎたりしないでほしいと思います。常に先に、そして横に前に、広く見ていくことを心がけていくと、自ずと自分にとって興味関心があることっていうことが見えてくるのではないかなと思います。」と語ってくれました。
(平成18年度インタビュー)