「楽学の会」とのかかわり
早坂さんの現在の肩書きは、NPO法人「楽学の会」代表理事と「NPO法人連絡会」理事。どちらもボランティアの活動です。週の大半を費やす「楽学の会」は、主に区民対象の講座や講演会の企画運営をおこなうNPO法人です。早坂さんはここで、会全体の運営のほかに、生涯学習ボランティア養成講座や、日本語ボランティア支援講座といった講座の企画運営、また、会員同士や他の団体とのネットワークづくりに取り組んでいます。
「楽学の会」は、足立区生涯学習館が開講した「足立区民大学・生涯学習ボランティア養成セミナー」の修了生が1996年に立ち上げた学習ボランティアグループです。早坂さんは2001年度にこのセミナーを受講し、修了後の2002年から本格的に「楽学の会」に参加するようになりました。ちょうど、会員の間でNPO法人化の機運が高まっていた時期のことでした。
NPO法人化による活動の変化
NPO法人になることで、区からの受託事業などが増えるというやりがいは高まりましたが、その半面、「難しいことばかりやっているんじゃないか?」と疑問を持つ会員もおり、調整に苦労することもしばしば。行政との連携が増して活動が広がるのは嬉しいことですが、それを通して「楽学の会」も、転換期に差し掛かろうとしています。
そんな会の転換期に当たって、副代表として多くの課題や悩みに直面している早坂さん。「人はみな異なるのだからぶつかり合うのは当たり前と思います。私はあまり後ろを振り返らないです。悩んでも2日間くらい。自分を切り替えないと、同時にいろいろなことはできないことを、長年の経験から学びました。悩んでいる暇もないです。」
学びから仕事へ、仕事から学びへ
山形県で育ち、地元の高等学校を卒業と同時に就職。働きながら、小さい頃からの夢だった服飾デザイナーを目指して、夜間の専修学校に通いました。しかし、実際に服飾デザインを学んでみると、デザイナーとして自立して働けるだけの才能がないことを実感。好きな洋裁は趣味として楽しむことにしました。その後結婚し、夫の転勤で東京都足立区に転居。ここで3人の子どもを育てました。
子育てが一段落した頃、区の広報誌で足立区女性大学の公募を知り、受講をスタート。コースを終えた後も、出会った仲間と自主学習会をつくり、6年間、女性学の勉強を続けました。
それと同時に、再び仕事を始めました。足立区女性センターの臨時職員に推薦され、週4日センターで働くことになったのです。さらにその後、区役所の非常勤職員にも採用され、合計で5年間、行政職員を務めました。このときの経験について、「パソコンの技術の習得ができたし、何にも増して、区役所の職員との人脈ができたことが大きな宝だったことは、NPO法人の活動をとおして、ひしひしと感じられる。経済的には赤字でも、何倍もの財産をいただいた」といいます。
さらに、仕事と並行して2年間、足立区女性大学大学院にも参加し、行政の経験を活かして住民の管理運営に関する卒論を上梓。自信をつけました。
他方、自分自身の経験から、主婦が子育てをしながら学ぶことの大変さを身にしみて知っています。そこで、保育ボランティア養成講座を受講し、女性大学を受講している女性の子どもを預かるボランティアを、4年間おこないました。
その後、「生涯学習ボランティア養成セミナー」を受講し、続けて「楽学の会」へと活動を広げていきました。区の生涯学習に参加したことで、「知識の広がりだけでなく、働く機会を得、多様な人々と知り合い、その方々とのつながりが支えになってくれている」といいます。
活動を支えてくれたもの
「専業主婦であった期間が本当に長かったです。でも考えてみると、子どもを生んだ頃から、私は地域に出ていましたね」という早坂さん。「ボランティア活動」などと肩肘張らずに、さまざまな地域活動にごく自然に関わってきたことが、現在のNPO活動の下地になっています。
中でも、子どもが通っていた区立中学校のPTA会長を務めたことは、大きな意味をもつ経験になりました。校内では初めての女性会長であり、自分自身にとっても挑戦的な課題の連続でしたが、それらの克服を通して、現在のNPO活動を支える資源を手に入れることができました。夫や子どもの協力に力づけられたことも、大きな喜びでした。
いろいろなタイプの人を1つにまとめ、女性からの反発やリーダーの孤独など、大変な思いをしながら学んだ組織づくりの基本。「大変な経験の積み重ねが今の自分のエネルギ−になり、原動力になっている」といいます。
「むしろ人と違うことを」
早坂さんの心の支えは、お母さんの口癖です。成績については何もいわなかったお母さんは、そのかわり、いつもこういっていました。「他人と比べても意味はない。自分は自分、人は人なんだから、人をうらやんだり、嫉妬したりしてはいけない」と。
だから「人と同じことをしようという気持ちは自分の中にはない。むしろ人と違うことをやりたいという気持ちがどこかにあるようだ」と早坂さんはいいます。そんな彼女の勇気とポジティブな姿勢は、これからもたくさんの人を学ぶ楽しさに導いてくれることでしょう。
(平成16年度インタビュー、平成18年度修正)