「女性の人生は色々あるけど、周囲のせいにしていることが結構あると思うよ」
高校を卒業して結婚。結婚後は、4人の子どもを育てながら、地方公務員の上級職の試験に合格して学校事務員として働いたり、本屋のおかみさんとして店を切り盛りしたりしてきました。家庭の事情で、2年間ぐらいすると仕事をやめなければならないという生活が続く中、なんとか仕事と子育てを両立させてきました。
36才の時、立教大学が社会人入試制度を開設しました。ずっと勉強したいと思っていた川本さんは、それを知って法学部を受験、一期生となりました。「勉強は面白くてのめりこんだ」といいます。しかし、間もなく家業が思わしくなくなりました。
学業継続を断念し、学生生活のけじめとして2年の期末試験を受けた帰り、たまたま同じ試験を受けた女性に、学業断念の事情を聞いてもらいました。話を聞いて彼女はこう言いました。
「女性の人生には色々あるだろう。年下の私にはまだまだ分からないことがあるのだろう。でも、もうちょっと頑張ればなんとかなったかもしれないことを周囲のせいにして諦めてしまっていることが結構あると思うよ。」
その言葉にはっとした川本さんは、ここで辞めてはいけないと思い直し、化粧品会社の女性支援プログラムの奨学金に応募し、学業を続けました。
大学から不動産業界へ
その後、自宅の売却をきっかけに、宅地建物取引主任の資格を取り、大学に在籍したまま、大手の不動産会社に就職。
しかし、学業・子育て・仕事の3つのバランスをとることは大変で、転職を考えました。ところが、土日を休める仕事を探そうと人材派遣会社に出向いてみれば、「主婦はだめ」と断られ、事務職を目指してパソコンの研修に行ってみれば、目の前で中年女性が苦戦中。ついに、「私のような中年女性が今から仕事を続けていくのなら、事務ではなく、不動産業しかない」と決心し、自宅に近い不動産会社に転職しました。
新しい会社では、仕事が細分化されて全体が見えにくかった大手の会社と違って、小規模の仲介業の人びとと知り合いになり、自分の活動の範囲を広げることができたといいます。また、パート従業員に主婦を雇用することを提案。それが成功して、子会社を作り、1000名のパートを束ねる管理職も務めました。そしてついに、53歳の誕生日を迎えた直後に独立。不動産販売会社を設立しました。
NPO法人「不動産女性会議」設立−不動産業界の女性をつなぐ−
不動産会社に就職して以来、この業界が男性主導であって、女性社員の能力開発やキャリア形成にはほとんど関心がないことや、女性経営者の勉強の場がないことを実感してきました。そこで1998年、会社創業3周年記念事業として、パーティのかわりに、「不動産女性会議」というセミナーを開催。女性経営者を招待して、「次世代の不動産業を考える」および「アメリカのトップエージェントに学ぼう」という2つの講演会を開きました。
さらに、2000年には、不動産業に携わる人および一般の人びとを対象に、高齢化社会における住宅のあり方についての勉強会を開きました。勉強会を続けるうちに、参加した女性経営者の間から「この集まりをNPOにしないか」という声があがり、川本さんを中心にNPO法人化が進められていきました。
「不動産女性会議」は、不動産業に携わる女性社長の交流の場として、同業者でなければ話せないことを安心して話し合える場という意味合いの強いグループです。そのため、法人化する際に、会の活動と個人のビジネスを混同する危険をいかに避けるかを考えました。そして2001年、「不動産にかかわる女性のエンパワーメントおよび高齢者などの弱者をはじめ人間にやさしいまちづくりなどを通して、社会を変えていく」ことを目標に掲げ、NPO法人「不動産女性会議」が発足しました。
不動産業をとおした、人にやさしいまちづくり
NPOを立ち上げる前から、住宅を販売するという仕事を通して、不動産に関する正しい知識の普及の必要性や、高齢者・弱者の生活と資産を守る、人にやさしいまちづくりの重要性を実感するようになっていました。「不動産女性会議」は、そんな川本さんが日ごろから培ってきた問題意識やネットワークと深く結びついています。
「不動産女性会議」の会員は、みな同業の女性社長です。川本さんは理事長と事務局長を兼ね、運営の中心を担っています。主な活動としては、会員が講師となっておこなう「不動産ミニセミナー」という定期講座があります。ここでは、会員が女性の立場から不動産相談に当たっています。
苦労する点は、会社の経営者として多忙な毎日を送り、NPO活動に対してそれぞれ認識を違える会員たちをまとめあげ、コンセンサスをとること。また、ときには個人の事業とNPOとしての事業との区別があいまいになるといった難しさもあります。
最近進めているのは、「人にやさしいまちづくり」を目指した、ニューバージョンの東京音頭による市民交流活動です。よさこい鳴子踊りや、よさこいソーランのイベントを見た川本さんは、「東京に住む人びとが東京をふるさととして感じられるために東京音頭を見なおそう、よさこいの人たちにも東京音頭を踊ってもらおう!」と思い立ち、3年ほど前から「東京音頭」をロック調にアレンジしたニューバージョンの制作を進めてきました。題して、東京音頭・平成版“大江戸東京音頭”。にぎやかな東京音頭とともに、草の根の交流活動もスタートしています。
女性の視点で不動産業を考え、不動産業をとおしたまちづくりを目指す川本さん。彼女の新しい視点と活動が、これから地域にどんな変化をもたらすのか、楽しみです。
(平成16年度インタビュー、平成18年度修正)